「野村AI」というキーワードで検索すると、証券・シンクタンク・不動産と、複数の野村グループ各社によるAI活用の取り組みがヒットする。生成AIからエージェントAIへと軸足が移りつつある2026年、野村グループ全体でどのようにAIが業務やサービスに組み込まれているのかを整理する。
- 野村総合研究所(NRI)は社内生成AI基盤を1万人以上の社員が活用し、業界特化型LLMの開発にも着手している
- 「社会レジリエンスAI」構想など、次世代のAIエージェント活用に向けた提言も進んでいる
- 野村證券はAIチャットボットを複数のアプリに導入し、顧客対応の効率と満足度を高めている
- 野村不動産グループは対話型AIサービスで不動産相談のハードルを下げている
- グループ横断で見えるのは「生成AI」から「エージェントAI」への移行という共通トレンド
野村グループがAI活用を加速させる背景
金融・不動産・シンクタンクという性質の異なる事業を抱える野村グループだが、近年は各社が横並びで生成AI・エージェントAIへの投資を強めている。背景にあるのは、金融サービスや不動産相談といった「専門知識が必要だが個別対応の負荷が大きい」業務領域を、AIによって効率化しつつ顧客体験を落とさないという共通の課題意識だ。単なる業務効率化のツールとしてだけでなく、顧客接点そのものを支えるインフラとしてAIを位置づけている点が、野村グループのAI活用の特徴といえる。
AI活用というと「チャットボットの導入」がイメージされやすいが、野村グループの取り組みを見ていくと、社内業務の効率化・専門特化型モデルの開発・顧客向けサービスという3つの層で並行して進んでいることが分かる。
野村総合研究所(NRI)の取り組み
野村グループのAI活用の中核を担っているのが、シンクタンク・システムインテグレーターである野村総合研究所(NRI)だ。NRIは2023年から社内向けの生成AI基盤の本格運用を開始しており、現在では1万人を超える社員が利用し、累計利用回数は1000万回を突破しているとされる。全社員が日常的に生成AIへアクセスできる環境を早期に整えた点は、国内企業の中でも先進的な取り組みとして評価されている。
社員が使い慣れた業務システムの延長でAIに触れられる環境を整えることで、特別な研修をしなくても自然に活用が広がっていく、という好循環が生まれているとされる。
業界・タスク特化型LLMの開発
NRIは、汎用の大規模言語モデルとは別に、特定の業界やタスクに特化した大規模言語モデル(業界・タスク特化型LLM)の構築手法を独自に開発している。比較的小規模なモデルをベースにしながら、保険業界の営業コンプライアンスチェックといった具体的な業務タスクで検証を行い、精度と効率のバランスを高める取り組みを進めている点が特徴だ。汎用モデルをそのまま使うのではなく、業界固有の知識やルールを反映させたモデルを自前で構築するという発想は、金融・保険といった規制産業でのAI活用における一つの解として注目されている。
社会レジリエンスAIという構想
2026年には、東京大学の研究知見と連携した「社会レジリエンスAI」という構想も打ち出された。これは、社会や産業に蓄積された熟練者の知見や業務データをインプットとして、変化の検知から要因分析、対策の提案までをAIエージェントが自律的に行い、予見・対応の精度を継続的に高めていくという仕組みだ。単発のタスクをこなすAIではなく、社会全体の変化に継続的に対応し続けるAIエージェントという発想は、今後の企業向けAI活用の方向性を示すものとして受け止められている。
「レジリエンス」とは本来「回復力」「しなやかな強さ」を意味する言葉。変化やトラブルが起きた際に迅速に検知し、対応策を提示できる仕組みという発想がAI構想の名前にも表れている。
クラウド連携とビジネス成果
NRIはGoogle Cloudが主催するAIエージェント関連のカンファレンスに協賛し、自社の知見を共有するなど、外部プラットフォームとの連携も積極的に進めている。こうした取り組みの成果は業績にも表れており、直近の決算では、システム開発の一部をAIで代替したことによる人件費抑制効果が、増益要因の一つとして説明されている。AI活用が単なるコスト削減にとどまらず、収益性の改善に直結し始めている点は、他業種にとっても参考になるポイントだろう。
野村證券のAI活用
証券会社である野村證券では、顧客対応の現場でAIチャットボットの導入が進んでいる。資産管理アプリでAIチャットボットを導入したところ、FAQ対応の精度が向上し、運用に必要な人員をおおむね3分の1程度まで抑えられたという事例が報告されている。この成果を踏まえ、新たに提供を開始したカスタマーサポート向けアプリにも同様のAIチャットボット基盤が採用されており、一つのサービスで得た知見を別のアプリへ横展開するという堅実な進め方がうかがえる。
- まず一つのアプリでAIチャットボットを試験導入
- 効果とコストパフォーマンスを検証
- 効果が確認できた基盤を他アプリへ展開
広告審査・分析支援・顧客対応での活用
証券業では、広告表現や資料が金融関連の各種規制に沿っているかを確認する審査業務が欠かせない。こうした確認作業や、市場・企業分析を支援する場面、そして顧客からの問い合わせ対応の場面でも、生成AIの活用が進んでいるとされる。人が最終判断を行う体制を維持しながら、AIが一次チェックや情報整理を担うことで、業務スピードと正確性を両立させる狙いがあるとみられる。
生成AIからエージェントAIへ
野村證券の担当者による解説でも、AI活用のトレンドが「生成AI」から「エージェントAI」へと変化している点が指摘されている。生成AIが文章や画像といったコンテンツを作り出すのに対し、エージェントAIは人の指示を最小限にとどめながら、複雑なタスクを自律的にこなしていくのが特徴だ。投資分析や情報収集の分野でも、こうしたエージェント型AIをどう業務に組み込むかが今後のテーマになっていくと見られている。
生成AIとエージェントAIの違いは「指示待ちか、自律的に動くか」という点にある。エージェントAIは複数のタスクを組み合わせて目的を達成できるため、より人手に近い形での業務代行が期待されている。
野村不動産グループの対話型AIサービス
不動産事業を手がける野村不動産ソリューションズは、不動産情報サイトにおいて、生成AIを活用した対話型の相談サービスを提供している。当初はベータ版として一問一答形式のチャットボットからスタートし、その後、より自然な対話に近い形にリニューアルされた経緯がある。物件探しや売買の相談は専門用語も多く、初心者にはハードルが高い分野だが、AIが自然な会話形式で疑問に答えてくれることで、気軽に相談できる窓口としての役割を果たしている。
一問一答型のチャットボットから、文脈を踏まえた自然な会話ができる対話型AIへ。ユーザーが「知りたいことをそのまま聞ける」体験に近づいている。
LINE版での提供開始
このサービスはその後、多くのユーザーが日常的に利用しているLINE上でも提供されるようになった。専用アプリやウェブサイトを開かなくても、使い慣れたコミュニケーションアプリの中で相談ができる点は、利用のハードルを下げるうえで大きな意味を持つ。ユーザーが普段から使っているプラットフォーム上にAIサービスを展開するという発想は、不動産以外の業界にも応用できる考え方だろう。
野村グループ各社のAI活用を整理
ここまで紹介してきた取り組みを一覧にまとめると、以下のようになる。
| 会社・組織 | 主な取り組み | 特徴 |
|---|---|---|
| 野村総合研究所(NRI) | 社内生成AI基盤、業界特化型LLM、社会レジリエンスAI構想 | 全社的なAI活用基盤とエージェントAI研究の両輪 |
| 野村證券 | AIチャットボット、広告審査・分析支援、顧客対応 | 実証済みの基盤を複数アプリへ横展開 |
| 野村不動産ソリューションズ | 対話型AI相談サービス、LINE版展開 | 日常利用アプリへの組み込みで利用のハードルを低減 |
グループ各社が個別にAIサービスを展開しつつ、NRIが技術基盤や研究面での知見を提供するという役割分担が、野村グループ全体のAI活用を下支えしていると考えられる。
読者がこの動きから得られるヒント
野村グループの一連の取り組みから、AIツールの活用を検討しているビジネスパーソンや個人ユーザーが参考にできるポイントはいくつかある。
- 小さく試して効果を検証してから横展開する、という段階的な導入の進め方
- 汎用AIだけでなく、自分の業務・分野に特化した使い方を意識する
- 普段使っているアプリやサービスの中にAI機能が組み込まれていないか確認してみる
- 「生成AI」だけでなく「エージェントAI」的な自動化の動きにも注目しておく
特に、AIチャットボットや対話型サービスは、日常的に使っているアプリの中に既に組み込まれているケースが増えている。新しいツールを探すだけでなく、手元のサービスに追加されたAI機能を見逃さないという視点も、これからのAI活用では重要になってくるだろう。
金融・不動産といった専門性の高い分野のAIサービスを利用する際は、最終的な判断は必ず自分自身や専門家の確認を経るという姿勢を忘れないようにしたい。AIはあくまで情報整理や一次対応をサポートする存在である。
まとめ
野村グループにおけるAI活用は、シンクタンクであるNRIの研究・基盤開発、証券会社である野村證券の顧客対応効率化、そして不動産グループの対話型相談サービスという形で、それぞれの事業特性に合わせて広がっている。共通しているのは、AIを一時的な話題づくりのツールとしてではなく、日常業務やサービスに溶け込ませる形で継続的に活用しているという姿勢だ。生成AIからエージェントAIへという大きな流れの中で、野村グループの取り組みは、専門性の高い業界におけるAI活用の一つのモデルケースとして、今後も注目していきたい動きといえる。
野村AIの取り組み事例|証券・不動産グループの活用整理をまとめました
野村総合研究所の社内AI基盤や業界特化型LLM、社会レジリエンスAI構想、野村證券のAIチャットボットや業務支援、野村不動産グループの対話型AI相談サービスと、野村グループ各社は事業領域に応じた形でAI活用を進めている。生成AIからエージェントAIへという流れを踏まえながら、それぞれのサービスが今後どのように進化していくのか、引き続き注目していく価値があるテーマだ。



















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