- 広告効果を予測しながらクリエイティブを自動生成する「極予測AI」が進化を続けている
- スクラッチ開発の日本語大規模言語モデル「CyberAgentLM」シリーズが商用利用可能な形で公開されている
- AI前提の開発体制を支える新組織「AIXデザイン室」が設立された
- 研究部門のAI Labが国際学会で成果を発表するなど、基礎研究への投資も継続している
- 2026年中の動画広告完全自動生成など、実務への落とし込みが加速している
広告とテクノロジーを軸に事業を展開してきた大手IT企業では、ここ数年でAI活用の範囲が大きく広がっている。かつては広告効果の予測やクリエイティブ制作支援が中心だったが、現在では独自の大規模言語モデル開発、社内の開発プロセス全体をAI前提へ組み替える組織改革、さらには基礎研究の分野にまで取り組みが及んでいる。ここでは、広告AI・自社LLM・組織づくりという3つの切り口から、最新の動きを整理して紹介する。
広告クリエイティブを支える「極予測AI」の進化
インターネット広告の領域でまず押さえておきたいのが、広告効果を事前に予測しながらクリエイティブ制作を支援する「極予測AI」だ。2020年から提供が始まったこの仕組みは、当初は広告の効果予測がメインだったが、その後は生成AI技術を組み合わせることで機能を大きく拡張してきた。
- 広告コピーの自動生成機能を追加
- 大規模言語モデルを活用したコピー生成の高度化
- 生成AIによる商品画像の自動生成機能を実装
特に商品画像の自動生成機能では、既存の商品写真をもとに背景や構図を変化させたバリエーションを効率よく作り出せる点が特徴とされている。ターゲットや訴求内容に応じて画像パターンを増やせるため、広告のA/Bテストをより多く回せるようになったという評価もある。実際に、AIによる予測と生成の補助を受けることで、クリエイターひとりあたりの制作量が従来の約4.5倍まで増加したという報告もあり、制作現場の負担軽減に直結する成果として注目されている。
「極予測AI人間」という新しい取り組み
さらに一歩進んだ取り組みとして、企業やブランドごとに適したAIモデル(人物モデル)をオリジナルで生成し、広告効果の出せる存在として育成していく「極予測AI人間」というサービスも展開されている。デジタルヒューマン技術と効果予測AIの技術を組み合わせたもので、ブランドイメージに合わせた人物モデルを継続的に広告で活用できる点がポイントだ。
広告クリエイティブのAI活用は、単に「作業を代行する」だけでなく、効果予測というデータに基づいて「成果につながりやすい素材を選ぶ」段階まで踏み込んでいるのが特徴だ。
2026年中に目指す動画広告の完全自動生成
広告分野ではもうひとつ、SNS向け動画広告の完全自動生成化を2026年中に実現する方針も打ち出されている。静止画のクリエイティブだけでなく、動画という情報量の多いフォーマットにもAIの活用範囲を広げていく動きだ。動画広告は制作コストや工数がかかりやすい領域だけに、自動生成が実用段階に進めば、広告主にとってはスピーディーな出稿や多パターン展開がしやすくなると期待されている。
| 領域 | 主な取り組み | 特徴 |
|---|---|---|
| 広告コピー | 大規模言語モデルによる自動生成 | 画像やターゲットを考慮した文言生成 |
| 商品画像 | 生成AIによる画像バリエーション作成 | 効果予測と組み合わせた素材選定 |
| 動画広告 | 完全自動生成化を推進中 | 2026年中の実現を目標に開発 |
スクラッチ開発の日本語LLM「CyberAgentLM」シリーズ
広告クリエイティブの精度を高める土台として力を入れてきたのが、独自の日本語大規模言語モデル「CyberAgentLM」の開発だ。2023年に最初のバージョンが公開されて以降、着実にアップデートが重ねられている。
- 初代モデルを一般公開
- 後継となる第2世代モデルを公開
- 画像を扱えるようにした視覚言語モデル(VLM)を公開
- 225億パラメータの第3世代モデル「CyberAgentLM3」を公開
なかでも注目されているのが、既存の海外モデルをベースにせずゼロから学習させた225億パラメータのモデルだ。パラメータ数だけを見れば中規模のモデルだが、性能評価では、より大規模な海外製オープンモデルに匹敵する結果が出ているとされ、日本語処理に特化したモデル開発の成果として評価されている。ライセンスも商用利用が可能な形で提供されており、企業が自社サービスに組み込みやすい点も特徴のひとつだ。
なぜ自社でLLMを開発するのか
広告効果予測やクリエイティブ生成といった既存事業の精度をさらに高めるためには、日本語特有の表現やニュアンスを正確に扱えるモデルが欠かせない。そうした背景から、外部のAPIに頼るだけでなく、自社でモデルを一から作り込む方針が取られてきた経緯がある。日本語に強いAI基盤を持つことは、広告以外の新規サービス開発にも応用できる資産になるとみられている。
自社LLMは「広告クリエイティブの精度向上」のために開発が始まったが、現在では画像対応のVLMまで含む幅広いラインナップに発展している。
AI前提の開発体制へ、「AIXデザイン室」設立
AI活用は広告やモデル開発だけにとどまらない。2026年8月には、AI時代における新しいデザイナー像として「AIXデザイナー」を定義し、その育成や評価の仕組みづくりを担う専門組織「AIXデザイン室」が設立された。
ここで言う「AIXデザイナー」とは、単に制作作業を効率化するためにAIを使うだけの役割ではない。ビジネス課題の発見やユーザー体験の設計、さらには実際に動くプロダクトの実装・改善までを、AIを前提とした開発プロセスの中で担う存在として位置づけられている。
- AIXデザイナーに求められるスキルや役割を明確化
- 育成機会の提供
- 習熟度を評価する仕組みの構築
この動きの背景には、2028年までに開発プロセス全体の完全自動化を目指すという長期方針があるとされる。エンジニアリング領域だけでなく、デザインという上流工程からAI活用を組み込むことで、企画から実装までの一連の流れをAI駆動型に変えていく狙いがうかがえる。
エンジニアとAIエージェントが協働する開発現場
デザイン領域の組織改革と並行して、エンジニアリング側でも「AIドリブン推進室」という組織が置かれ、エンジニアとAIエージェントが協働する開発体制へのアップデートが進められている。人がすべてのコードを書くのではなく、AIエージェントに一部の実装や改善を任せながら、人はより上流の意思決定に集中するという役割分担が模索されている段階だ。
デザインとエンジニアリングの両輪でAI前提の体制づくりが進んでいる点は、単発の施策ではなく中長期の組織方針として捉えると理解しやすい。
基礎研究にも投資、AI Labの取り組み
事業活用の側面だけでなく、基礎研究への投資が続けられている点も見逃せない。研究開発組織「AI Lab」に所属する研究員と外部の研究機関との共同研究論文が、理論計算機科学分野で権威のある国際会議に採択され、海外で開催される学会で発表される予定となっている。
広告事業で培ったデータやノウハウを実務に生かすだけでなく、アカデミックな領域での成果発信にも力を入れている点は、AI技術への投資の本気度を示す材料のひとつといえるだろう。こうした研究成果は、将来的に広告クリエイティブの予測精度向上や、自社LLMの性能改善といった形で事業に還元されていく可能性がある。
広告テック企業が国際学術会議で研究成果を発表するケースは珍しくなく、事業とアカデミアを橋渡しする動きとして業界内でも一定の評価がある。
読者にとってのメリットは何か
ここまで紹介してきた取り組みを俯瞰すると、共通しているのは「効果を予測しながら、必要な分だけ生成する」という考え方だ。やみくもに大量のコンテンツを作るのではなく、データに基づいて成果につながりやすい素材を選びながら制作を効率化する姿勢は、広告主やマーケティング担当者にとって参考になる部分が多い。
- 広告クリエイティブの制作工数を減らしつつ、パターン数を増やせる可能性がある
- 日本語に強いAI基盤が育っていることで、今後のサービス連携にも期待が持てる
- AI前提の組織づくりは、他業種の企業がAI活用体制を検討する際の参考事例になる
動画広告の完全自動生成がどこまで実用化されるか、そしてAIXデザイン室が生み出す新しい働き方が他社にどう波及していくかは、引き続き注目しておきたいテーマだ。
まとめ
広告効果を予測しながらクリエイティブを自動生成する「極予測AI」、スクラッチ開発の日本語LLM「CyberAgentLM」シリーズ、そしてAI前提の開発体制を支える「AIXデザイン室」など、取り組みは広告・技術・組織づくりの3方向に広がっている。単発の施策ではなく、事業活用と基礎研究、そして人材育成を同時並行で進めている点が特徴的で、今後もアップデートが続いていくと見られる。動画広告の完全自動生成や新しい組織体制の成果が、どのような形で世の中に広がっていくのか、引き続き注視していきたい。
サイバーエージェントのAI戦略|広告からLLM開発まで最新動向をまとめました
広告クリエイティブの自動生成を支える極予測AI、商用利用可能な日本語LLM「CyberAgentLM」シリーズ、AI前提の開発体制を目指すAIXデザイン室、そして基礎研究に取り組むAI Labという4つの軸で最新動向を整理した。効果予測に基づく効率的なコンテンツ生成という考え方は、広告に限らず幅広い分野でのAI活用を検討する際のヒントになるだろう。



















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