- DeNAの南場智子会長が、社内で進めてきたAI活用の1年間の成果を公開
- ソフトウェア開発の一部プロジェクトでは生産性が20倍に向上した事例も
- 法務・QA・審査業務など、複数の部門で業務時間の大幅な削減を実現
- 「中途半端な専門性は淘汰される」という厳しい指摘と、日本の可能性への期待が同時に語られた
- 今後は「ツールとしてのAI」から「自律的に動くAIエージェント」への移行が焦点に
DeNAが掲げた「AIオールイン」という方針
DeNAの南場智子会長は、約1年前に「AIにオールインする」という方針を社内外に打ち出した。これは、単に便利なツールとしてAIを導入するのではなく、AIを前提に業務そのものを組み直すという発想の転換だった。既存事業を維持・発展させながら、浮いた人的リソースを新規事業へシフトさせるという狙いも込められている。
2026年3月に開催されたAI関連のビジネスカンファレンスでは、この1年間の取り組みを振り返るクロージング講演が行われ、具体的な成果と今後の課題が共有された。単なる掛け声ではなく、実際の業務データに基づいた報告だった点が注目を集めている。
生産性20倍の衝撃的な数字
最も話題になったのは、ソフトウェア開発における成果だ。一部のプロジェクトでは、作業のうちAIが95%、人間が5%を担う体制が実現し、結果として従来比で約20倍の生産性向上につながったという。開発現場において、AIが単なる補助ではなく主力として機能し始めていることを示す象徴的な事例といえる。
開発以外の部門でも、効率化の成果は着実に出ている。以下は、公開された取り組みの中で紹介された主な数値だ。
| 業務領域 | 効率化の効果 |
|---|---|
| ソフトウェア開発 | 生産性 約20倍(AI比率95%の事例) |
| 法務のリーガルチェック | 工数 約90%削減 |
| QA(品質管理・テスト) | 工数 約50%削減 |
| ライブ配信の審査業務 | コスト 約60%削減 |
この数字が示すのは、AIが「時間を短縮するツール」から「業務プロセスの中核」へと役割を変えつつあるという現実だ。特にリーガルチェックや品質管理のような、専門知識を要するが定型的な判断も多い領域で、大きな効果が出ている点が興味深い。
「中途半端な専門性は一撃で淘汰される」という警鐘
一方で南場氏は、成果を誇るだけでなく厳しい現実にも触れている。「LLMは無慈悲だ」という言葉で、生成AIの進化が専門職の在り方そのものを揺さぶっていることを指摘した。中途半端な知識やスキルでは、AIに一瞬で追い抜かれてしまう時代になったという評価だ。
この発言は、AIを脅威として語るものではなく、むしろ「これからの専門性とは何か」を問い直すきっかけとして受け止められている。単純作業や定型的な判断はAIに任せ、人間はより深い洞察や意思決定、創造的な仕事に集中すべきだという考え方が、DeNAの取り組み全体に一貫して流れている。
日本とシリコンバレーの間にあるAI活用格差
南場氏は、米国西海岸と日本を行き来する中で感じるAI活用への意識の差についても言及している。西海岸では学生からスタートアップ、投資家に至るまで、AIツールを「息をするように」使いこなしているという印象を語った。
これは日本が劣っているという単純な話ではなく、AIを「特別な新しい道具」として構えて使うか、「当たり前の作業環境」として自然に溶け込ませるかという、活用の姿勢の違いだと捉えられる。日々の業務にAIツールを組み込み、試行錯誤を重ねること自体が、組織の適応力を高める最短ルートだという示唆が読み取れる。
「考える」は人、「整える」はAIという役割分担
DeNAの取り組みで一貫しているのは、AIを後から付け足すのではなく、業務設計の段階からAIの活用を前提にするという発想だ。具体的には、「考える作業」は人間が担い、「整える作業」はAIが担当するという役割分担が徹底されている。
企画の方向性を決めたり、優先順位を判断したりといった意思決定は人間が行い、資料の整形、情報の要約、テストケースの生成といった定型的な作業はAIに任せる。この切り分けによって、1人が担当できる業務範囲が大きく広がり、結果として少人数でも高い生産性を維持できる体制が生まれている。
次のテーマは「AIエージェントの経済学」
南場氏が注目のテーマとして紹介しているのが、AIエージェントが経済活動そのものを担うようになった場合に何が起こるか、という論点だ。現在のAIの多くは、人間が指示を出して使う「道具」だが、今後は目的を与えられれば自ら計画を立て、交渉し、契約まで完結させる「エージェント」としての進化が見込まれている。
AIエージェントが自律的に売買や契約を行うようになれば、需要と供給の仕組みや価格形成のあり方自体が変化する可能性がある。これは遠い未来の話ではなく、業務効率化の延長線上に見えてくる次のステージとして、多くの企業が注視し始めているテーマだ。
読者が今日から取り入れられるヒント
DeNAの事例から学べる実践的なポイントは、大きく分けて3つある。
- 定型作業から任せてみる:資料整形や要約、テストケースの洗い出しなど、判断より作業量が多い業務からAI活用を始めると効果を実感しやすい
- 業務プロセスごと見直す:既存の作業にAIを付け足すのではなく、AI前提でフローを再設計すると効率化の伸びしろが大きくなる
- 専門性を磨き続ける:AIに代替されにくいのは、深い専門知識と状況に応じた判断力。ツールに任せられる部分を見極めつつ、自分の強みを伸ばす意識が重要になる
特別なシステムを構築しなくても、日々の業務の中で使えるAIチャットツールや文書生成ツールから試してみるだけで、体感できる変化は十分にある。まずは小さな業務から、AIとの役割分担を試してみるのがおすすめだ。
より詳しい取り組みの内容は、DeNAの公式サイトでも紹介されている。
まとめ
DeNAの南場智子会長が語った1年間の「AIオールイン」の成果は、生産性20倍という開発現場の劇的な変化から、法務・QA・審査業務における着実な効率化まで、多岐にわたるものだった。同時に「中途半端な専門性は淘汰される」という厳しい指摘は、AI時代に求められる働き方を考えるうえで重要な視点を与えてくれる。今後は道具としてのAIから、自律的に動くAIエージェントへと活用の焦点が移っていくことが見込まれ、ビジネスパーソンにとっても学び続ける価値のあるテーマだ。
DeNA南場智子会長のAI活用術|生産性20倍の裏側と使い方のコツをまとめました
AIを「後から足すツール」ではなく「業務設計の前提」として扱うこと、そして「考える」は人、「整える」はAIという役割分担を意識すること。この2点が、生産性20倍という成果の土台になっている。日本と海外のAI活用の温度差を意識しつつ、まずは身近な定型業務からAIとの協働を始めてみることが、変化の激しいAI時代を生き抜くための第一歩になるだろう。



















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