複合機メーカーというイメージが強いリコーだが、ここ数年で生成AIやロボティクスを軸にした事業転換が急速に進んでいる。社内文書を検索・要約する業務支援AIから、自治体向けの専用サービス、さらには工場で稼働するヒューマノイドロボットまで、取り組みの幅は想像以上に広い。本記事では、最新の動向をもとにリコーのAI戦略を整理して紹介する。
- リコーは業務知識を検索・活用する生成AIサービス「仕事のAI」「RICOHデジタルバディ」を展開している
- RAG(検索拡張生成)技術により社内文書や熟練者のノウハウを「知識資産」として活用できる
- 日本語処理に強い700億パラメータの独自大規模言語モデルを開発済み
- 生成AIアプリ開発基盤Difyとの連携で、業務アプリ開発のハードルを下げている
- 工場向けにはフィジカルAIを搭載した多能工ヒューマノイドの実証も進行中
リコーが進めるAIシフトの全体像
リコーは2015年ごろから画像認識を中心とした深層学習AIの研究に本格的に取り組み始め、2023年には独自の大規模言語モデル(LLM)の開発にいち早く着手した企業のひとつとされている。複合機やプリンターで培ってきた画像処理技術と、文書を扱う業務ノウハウを掛け合わせ、「オフィスのデータをどう価値に変えるか」という課題にAIで応えようとしているのが特徴だ。
業務を支える生成AIサービス「RICOHデジタルバディ」
現在リコーが力を入れているのが、働く人の日々の業務をサポートするAIソリューション「RICOHデジタルバディ」と、問い合わせ対応を自動化する「RICOH Chatbot Service デジタルバディ」だ。社内外からの質問に対して、蓄積された文書やマニュアルをもとに回答を生成する仕組みで、コールセンターやヘルプデスク業務での活用が想定されている。
RAGで社内知識を「資産」として使いこなす
これらのサービスの中核にあるのがRAG(検索拡張生成)という技術だ。社内の議事録やマニュアル、ベテラン社員が持つ暗黙知などをベクトル化してデータベース化し、質問に応じて関連する情報を検索したうえで生成AIが回答文を組み立てる。単にAIが一般的な知識で答えるのではなく、「その会社ならではの情報」をもとに回答できる点が実務での評価につながっているようだ。
外部ストレージとの連携で広がる活用範囲
直近のアップデートでは、Microsoft SharePointとの連携オプションに加え、外部ストレージサービスBoxとの連携も選べるようになった。普段使っているクラウドストレージの中身をそのままAIの検索対象にできるため、新たに文書を移行する手間を抑えながら導入できる点が実務上のハードルを下げている。さらに2026年にはマルチモーダルRAGや一般的な雑談対応機能も強化され、画像を含む資料への対応や、より自然な会話のやり取りができるよう改良が進んでいる。
自治体向けにも広がるAI活用の裾野
民間企業向けだけでなく、自治体向けに特化した「RICOHデジタルバディ for 自治体」も提供されている。庁内の各種データと連携できる仕様になっており、住民対応や庁内業務の効率化を目的に導入が進められているようだ。行政の現場は紙文書や独自様式の資料が多く残っている分野でもあり、生成AIによる検索・要約の恩恵を受けやすい領域だと言える。
日本語処理に強みを持つ700億パラメータの独自LLM
リコーが開発を進める大規模言語モデルは、約700億パラメータという規模を持つ。特徴的なのは、学習に使う文章データの選定や誤記・重複の修正といった「データクレンジング」、さらに学習の順序や配分を工夫する「カリキュラム学習」など、独自の手法を積み重ねて精度を高めている点だ。加えて約1万6千件規模のインストラクションチューニング用データを追加学習させることで、幅広い業務タスクへの応答力を持たせているという。
トークナイザー改良による日本語処理の効率化
特に注目したいのが、日本語を扱う際の処理効率を高めるためのトークナイザー(文章を単語や記号の単位に分割する仕組み)の独自改良だ。ベースとなるモデルと比べて日本語処理の効率がおよそ43%向上したとされ、レスポンス速度の改善やサーバーコストの抑制につながっている。日本企業の社内文書を扱う上で、日本語特有の表記ゆれや敬語表現に強いモデルは実務的なメリットが大きい。
顧客ごとに個別開発する「プライベートLLM」
汎用モデルに加えて、顧客企業が持つ独自のデータや業界知識を取り込んだ「プライベートLLM」の個別開発も行われている。製造業における社内マニュアルの検索・要約や、日本語・英語・中国語など複数言語で日々更新される社内文書の活用など、業種や業務内容に合わせたカスタマイズが可能になっている点が特徴だ。クラウド環境で提供されるため、自社でサーバーを用意する負担を抑えながら利用できる。
Difyとの連携で進む生成AIアプリ開発の民主化
リコーは生成AIアプリケーション開発プラットフォーム「Dify」の販売・構築パートナー契約を結んでおり、企業が自社専用のAIアプリを比較的手軽に組み立てられる環境づくりを進めている。あわせて、Difyをベースにしたアプリのマーケットプレイスも用意され、既存のテンプレートを土台に自社向けのカスタマイズを加えるといった使い方ができるようになってきている。
工場の未来を描くフィジカルAIヒューマノイド
オフィス向けの生成AIだけでなく、リコーは製造現場に向けたロボティクス分野にも力を入れている。クラウドサービス事業者との協業イベントでは、フィジカルAIを搭載した多能工ヒューマノイドのデモンストレーションが披露され、工場内での実証実験(PoC)がすでに始まっていることが明らかにされている。
工場の一部工程を担う実用化を目指す
単一の作業しかできない従来の産業用ロボットとは異なり、「多能工」という言葉が示す通り、複数の工程に柔軟に対応できる汎用性の高さを目指しているのが特徴だ。実証の段階を経て、夏ごろまでにはより実践的な検証を進め、一部の工程を実際にヒューマノイドが担う運用を目指す考えが示されている。人手不足が深刻化する製造現場にとって、こうした汎用ロボットの実用化は大きな意味を持つ取り組みと言えるだろう。
中期経営戦略が描くAI活用の将来像
リコーが公表している中期経営戦略では、2030年度までを見据えてワークプレイス関連事業の統合や、印刷事業のエンジンシェア拡大、商用・産業用印刷、新規事業の推進といった方針が示されている。AIはこれらの事業領域を横断する基盤技術として位置づけられており、オフィス業務の効率化と製造現場の自動化を同時に進めていく方向性が読み取れる。
主なAIサービスの特徴を整理
ここまで紹介してきたリコーの主なAI関連サービスの特徴を、以下の表に整理した。導入を検討する際の参考にしてほしい。
| サービス名 | 主な特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| RICOHデジタルバディ | RAGで社内文書を検索・要約、SharePoint・Box連携 | 社内業務支援、問い合わせ対応 |
| デジタルバディ for 自治体 | 庁内データとの連携に対応 | 住民対応、庁内業務効率化 |
| プライベートLLM | 顧客データに合わせた個別開発、クラウド提供 | 製造業の技術文書活用など |
| フィジカルAIヒューマノイド | 多能工対応、工場でのPoC実施中 | 製造現場の一部工程の自動化 |
本記事の内容は2026年10月時点で公開されている情報をもとに整理している。サービスの提供状況や機能は今後変更される可能性があるため、導入を検討する際は最新の提供状況をあわせて確認することをおすすめする。
まとめ
リコーのAI戦略は、複合機メーカーというイメージにとどまらず、業務文書の検索・活用を支える生成AIサービスから、日本語に強い独自LLM、さらには工場で稼働するフィジカルAIヒューマノイドまで、非常に幅広い領域に及んでいる。共通しているのは「現場に蓄積された知識やノウハウを、AIによってどう引き出し、活かすか」という視点だ。オフィスでも製造現場でも、人手不足や属人化といった課題を抱える企業にとって、リコーのAI関連サービスは検討する価値のある選択肢のひとつになりそうだ。
リコーのAI活用最前線|仕事のAIからヒューマノイドまでをまとめました
本記事では、業務支援の生成AIサービス「RICOHデジタルバディ」、日本語処理に強い700億パラメータの独自LLM、Difyとの連携によるAIアプリ開発、そして製造現場向けのフィジカルAIヒューマノイドまで、リコーが進めるAI活用の広がりを紹介した。オフィスと工場の両面から業務効率化を後押しする動きとして、今後の展開にも注目していきたい。



















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