「RadeonのGPUでAIを動かそうとしたけど、うまくいかない…」そんな悩みを抱えている方は少なくありません。画像生成AIやLLM(大規模言語モデル)をローカルで動かしたいのに、Radeonだと対応していなかったり、エラーが出たりして困っている声がネット上に多く見られます。
この記事では、RadeonでAIが使えない主な原因をわかりやすく解説し、それぞれの対処法や回避策、さらには今後の改善見通しについても詳しくお伝えします。RadeonユーザーがAIをもっと活用できるよう、実用的な情報をまとめましたのでぜひ参考にしてください。
RadeonでAIが使えない最大の原因はCUDA依存
RadeonでAIが動かない最も大きな理由は、多くのAIソフトウェアがNVIDIAの「CUDA」という技術を前提に開発されていることにあります。CUDAはNVIDIAが開発したGPU向け並列コンピューティングプラットフォームで、機械学習や深層学習の世界ではデファクトスタンダードとなっています。
PyTorch、TensorFlow、Stable Diffusionなど主要なAIフレームワークやツールは、まずCUDA対応で開発され、最適化もNVIDIA GPU向けに行われています。そのため、AMD RadeonのGPUではそもそもインストールや実行ができないケースが多く発生します。
これはRadeonのハードウェア性能が低いという意味ではなく、ソフトウェアのエコシステムがNVIDIA側に大きく偏っているという構造的な問題です。例えるなら、高性能なエンジンを積んだ車があっても、その車に合うガソリンスタンドが近所にない、というような状況に近いでしょう。
ソフトウェアエコシステムの圧倒的な差
NVIDIAがAI分野で圧倒的な強さを誇るのは、長年にわたって構築してきたソフトウェアエコシステムの厚みが理由です。CUDAが最初にリリースされたのは2007年で、それ以来約20年近くにわたって研究者や開発者のコミュニティが育ってきました。
具体的には以下のような差があります。
- ライブラリの充実度:cuDNN、TensorRT、NCCLなど、AI開発に不可欠なライブラリがNVIDIA側に圧倒的に多い
- チュートリアルや情報量:AI開発のガイド、トラブルシューティング情報のほとんどがNVIDIA GPU前提で書かれている
- フレームワークの最適化:PyTorchやTensorFlowの公式ドキュメントもCUDA利用を前提としている
- コミュニティの規模:Stack OverflowやGitHubでの質問・回答もNVIDIA環境が中心
このエコシステムの差は一朝一夕で埋まるものではなく、RadeonでAIを動かしたいユーザーにとって大きな壁となっています。ただし、AMDもこの状況を認識しており、後述するROCmなどの取り組みで着実にギャップを縮めようとしています。
ハードウェア面での違い:Tensorコアの有無
ソフトウェアだけでなく、ハードウェアの構造にも違いがあります。NVIDIAのRTXシリーズには「Tensorコア」と呼ばれるAI演算専用の回路が搭載されています。Tensorコアは行列演算を高速に処理できる専用ハードウェアで、深層学習のトレーニングや推論の速度を大幅に向上させます。
一方、AMDのRadeonシリーズは従来、Tensorコアに相当する専用回路を持っていませんでした。そのため、同じ価格帯のGPUで比較しても、AI処理の速度でNVIDIA GPUに大きく差をつけられる場面がありました。
ただし、最新のRDNA 4アーキテクチャ(Radeon RX 9000シリーズ)では状況が大きく変わっています。RDNA 4では各コンピュートユニットに2基のAIアクセラレータが搭載され、前世代のRDNA 3と比較して4倍以上のAI演算性能を実現しています。FP8やINT4といったAI向けの新しいデータ型にも対応し、最大1,557TOPsという高い演算能力を持っています。
つまり、ハードウェアとしてのAI性能は急速に向上しており、残る課題はソフトウェア面のサポート体制ということになります。
AMDの回答:ROCmとは何か
AMDがCUDAに対抗するために開発しているのが、ROCm(Radeon Open Compute platform)というオープンソースのソフトウェアプラットフォームです。ROCmはGPUプログラミングのためのドライバ、開発ツール、APIを含むソフトウェアスタックで、生成AIやHPC(高性能コンピューティング)向けに最適化されています。
ROCmを使うことで、PyTorch、TensorFlow、ONNX Runtime、JAXといった主要なAIフレームワークをAMD GPU上で動かすことが可能になります。
ROCmの現在の対応状況
ROCmの対応は着実に進んでおり、最新のROCm 6.4.2では以下のGPUがサポートされています。
- Radeon RX 9070 / 9070 XT / 9060 XT(RDNA 4世代)
- Radeon RX 7900 XTX / 7900 XT / 7900 GRE(RDNA 3世代)
- Radeon RX 7800 XT / 7700 XT(RDNA 3世代)
ただし、ROCmにはいくつかの注意点があります。
ROCmの注意点と課題
- Linux環境が前提:ROCmは基本的にLinux(特にUbuntu)での利用が推奨されており、Windows環境では正式にサポートされていません
- バージョン互換性が厳しい:OSのカーネルドライバとROCmのバージョン、さらにAIライブラリのバージョンを厳密に一致させる必要があります
- 対応GPUが限定的:すべてのRadeon GPUがROCmに対応しているわけではなく、比較的新しいハイエンドモデルに限られます
- Flash Attentionの制限:一部の下位モデルではFlash Attentionカーネルが使えないなど、機能に制限があります
- パフォーマンスの差:同価格帯のNVIDIA GPUと比較すると、ROCm環境では処理速度に差が出ることがあります
これらの課題はありますが、ROCmの開発は活発に進んでおり、アップデートのたびに対応GPUの拡大やパフォーマンスの改善が行われています。
Windows環境での解決策:DirectMLを活用する
「Linuxは使えないけど、WindowsでRadeonを使ってAIを動かしたい」という方には、DirectML(Direct Machine Learning)という選択肢があります。DirectMLはMicrosoftが開発した機械学習APIで、AMD GPU、Intel GPU、NVIDIA GPUなどさまざまなハードウェアに対応しています。
DirectMLでStable Diffusionを動かす方法
画像生成AIの定番であるStable DiffusionをRadeonで動かす場合、DirectML版のWebUIを利用するのが最も手軽な方法です。通常のStable Diffusion WebUI(AUTOMATIC1111)のDirectML対応版が公開されており、以下の手順で導入できます。
- GitHubからDirectML対応版のWebUIをクローン
- Pythonの仮想環境をセットアップ
- 必要なパッケージをインストール
- –use-directmlオプションを有効にして起動
インストール手順自体はNVIDIA環境とほとんど変わらず、クローンするリポジトリが異なるだけという手軽さが魅力です。
DirectMLの注意点
DirectMLはWindowsで手軽に使える反面、ROCm(Linux)と比較するとパフォーマンスが大きく劣ることがあります。テスト環境によってはROCmの方が4倍近く高速という報告もあるため、本格的にAIを活用したい場合はLinux環境の構築も検討する価値があります。
また、VRAM使用量を抑えるための最適化オプションを活用することも重要です。Radeon GPUでメモリ不足が発生する場合は、生成する画像の解像度を下げたり、バッチサイズを小さくしたりといった調整が有効です。
CUDA互換プロジェクト:ZLUDAとSCALE
RadeonでCUDA対応のAIソフトウェアを直接動かすための興味深いプロジェクトも登場しています。
ZLUDA
ZLUDAは、NVIDIAのCUDAアプリケーションをAMD GPU上で実行できるようにするオープンソースのプロジェクトです。NVIDIAのPTX中間言語を解析し、AMD GPUで実行可能な形式に変換する仕組みを採用しています。
ZLUDAは現在も活発に開発が進められており、最新版ではROCm 7シリーズをサポートし、WindowsとLinuxの両方で動作します。AI関連のCUDAワークロードへの対応も進んでおり、CUDAでしか動かなかったアプリケーションをRadeonで使える可能性が広がっています。
SCALE
SCALEはSpectral Computeが開発したツールキットで、CUDAのソースコードをAMD GPU向けにネイティブコンパイルできます。ZLUDAがランタイムで変換するのに対し、SCALEはコンパイル時に変換を行う「クリーンルーム実装」として設計されており、コードの修正なしにCUDAプログラムをAMDで動かせるのが特徴です。
これらのプロジェクトはまだ発展途上ではありますが、NVIDIAのCUDA独占に風穴を開ける可能性を秘めた注目すべき取り組みです。
RDNA 4世代で変わるRadeonのAI対応
最新のRadeon RX 9000シリーズ(RDNA 4アーキテクチャ)では、AMDがAI対応に本腰を入れていることが明確にわかります。
RDNA 4のAI関連の強化ポイント
- AIアクセラレータの倍増:各コンピュートユニットに2基のAIアクセラレータを搭載
- 新データ型のサポート:FP8、INT4など、AI推論に最適化されたデータ型に対応
- スパース演算の対応:演算効率を高めるスパース(疎行列)処理をサポート
- 最大1,557TOPs:前世代比4倍以上のAI演算性能を実現
- 16GB GDDR6メモリ:大規模AIモデルの実行に必要なメモリ容量を確保
さらに、AMDはドライバソフトウェアにもAIバンドルを組み込む動きを見せており、AMD Software 26.1.1では「AI Bundle」としてAI関連機能がパッケージ化されています。これにより、Radeonユーザーがより手軽にAI機能を活用できる環境が整いつつあります。
ROCm対応の拡充
RX 9070シリーズは発売当初はROCm非対応でしたが、その後のソフトウェアアップデート(Radeon Software for Linux 25.10.2.1 / ROCm 6.4.2)によって正式にサポートされました。PyTorch、ONNX Runtime、JAX、TensorFlowといったフレームワークでRX 9070シリーズのGPUパワーを活用できるようになっています。
RadeonでAIを活用するための実践的なアドバイス
現時点でRadeonを持っていてAIを活用したい方に向けて、実践的なアドバイスをまとめます。
1. まず自分のGPUの対応状況を確認する
ROCmやDirectMLの対応はGPUモデルによって異なります。AMDの公式サイトで自分のGPUがどのプラットフォームに対応しているかを確認しましょう。一般的に、RX 7000シリーズ以降のハイエンドモデルであればROCm対応の可能性が高いです。
2. 用途に応じた環境を選ぶ
- 本格的なAI開発・学習:Linux + ROCmがベスト。パフォーマンスが最も高い
- 画像生成を楽しみたい:Windows + DirectML版WebUIが手軽
- LLMをローカルで動かしたい:llama.cppやOllamaなどのCPU/Vulkan対応ツールも検討する
3. コミュニティの情報を活用する
RadeonでAIを動かすためのノウハウは、QiitaやZenn、GitHubのディスカッションなどで日本語・英語の両方で共有されています。同じGPUモデルを使っているユーザーの体験談は非常に参考になります。
4. 最新ドライバとソフトウェアを維持する
AMDのAI対応は急速に改善されているため、ドライバやROCmのバージョンを常に最新に保つことが重要です。古いバージョンでは動かなかったものが、最新版では動作するようになっていることも珍しくありません。
5. 今後のGPU購入時はAI用途を意識する
新しくGPUを購入する予定がある場合は、VRAM容量を重視しましょう。AIモデルの実行にはVRAMが非常に重要で、16GB以上あると多くのモデルを快適に動かせます。Radeon RX 9070 XTの16GB GDDR6は、この観点からも魅力的な選択肢です。
今後の展望:RadeonのAI対応はどう進む?
RadeonのAI対応状況は年々改善されています。今後の注目ポイントをまとめます。
- ROCmのさらなる成熟:対応GPUの拡大、ライブラリの充実、Windows対応の可能性
- ZLUDA・SCALEの進化:CUDA互換性の向上により、RadeonでもCUDAアプリケーションが使える場面が増える
- フレームワーク側の対応拡大:PyTorchやStable Diffusionなど主要フレームワークのAMD GPU最適化が進む
- RDNA 5以降のアーキテクチャ:今後のハードウェアでさらにAI性能が向上する見込み
- AMDのソフトウェア戦略の強化:AIバンドルやドライバ統合によるユーザー体験の向上
AMDはAI市場でのシェア拡大を明確に目指しており、ハードウェアとソフトウェアの両面から積極的な投資を行っています。現時点ではNVIDIAとの差は大きいですが、その差は確実に縮まりつつあります。
まとめ
RadeonでAIが使えない主な原因は、AI業界がNVIDIAのCUDAを中心に発展してきたというソフトウェアエコシステムの偏りにあります。ハードウェアとしてのRadeonの性能は高く、特に最新のRDNA 4世代では大幅なAI性能の強化が行われています。ROCm、DirectML、ZLUDA、SCALEといった複数のアプローチによって、RadeonでAIを活用できる場面は着実に増えています。現状ではNVIDIA GPUに比べて手間がかかる部分はありますが、適切な環境を選び、最新の情報をキャッチアップすることで、RadeonでもAIを十分に活用することが可能です。今後のAMDの取り組みにも大いに期待が持てるでしょう。
RadeonでAIが使えないのはなぜ?原因と対処法を徹底解説をまとめました
RadeonでAIが使いにくい根本的な原因は、CUDAというNVIDIA独自技術への依存がAI業界全体に浸透していることです。しかし、AMDはROCmプラットフォームの開発、RDNA 4でのAIアクセラレータ強化、そしてZLUDAやSCALEといったCUDA互換プロジェクトの登場により、状況は大きく改善に向かっています。WindowsユーザーにはDirectML、LinuxユーザーにはROCmという選択肢があり、それぞれの環境に応じた方法でRadeonでもAIを活用できます。RadeonのAI対応は「使えない」から「工夫すれば使える」、そして「普通に使える」へと確実に進化しています。















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